心のバリアフリーin瀬戸 ~マンションバリアフリー編~
2012.01.05
- 阿部建設の仕事
事故により脊髄損傷になられたK様邸のマンションをバリアフリーに改修する設計及びバリアフリー工事をさせて頂きました。
当初はご両親からご相談を頂き、事故にあわれたK様に直接病院でお会いして設計を進めました。
度々お伝えしていますが、私は「心のバリアフリー」という考え方をお伝えしてバリアフリー工事を提案しています。
→心のバリアフリーについてのページはこちら。
単にバリアフリー工事を行うのではなく、心の面からサポートを行い、バリアを無くすことを目指した仕事をさせて頂いています。
→阿部建設のバリアフリー工事提案はこちらのページ
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ご相談を受けた際、既に他社で設計及び見積も済んでいる状況でした。
しかし、バリアフリー改修図面を見せて頂くと、不十分だったり、使いずらいと思われる部分が見受けられました。
K様の状態やお話をする様子を見ると、もう少し良い提案ができそうでしたので、その場で他案を提案することにしました。
ご覧のトイレは既存スペースに加え、居室の一部スペースを使い広げて設置しました。
トイレ内にはK様が使う作業スペース(洗面、手洗いなど)も設けました。
トイレットペーバーやタオルなどを収納するスペースの他にも、車いす生活者が使う道具や備品を収納するスペースもこの場所に設けました。
手すりなどは利き手や障害の程度に合わせ調整することが多々ありますが、K様の場合手すりは標準の高さ、位置で問題ありませんでした。
車いす生活者は長時間トイレにいることもあるため、手前にもたれるタイプの手すりを設けています。
他社の提案では既存のトイレ及び食品庫を使ったスペース提案がなされていました。私は既存の食品庫を無くす提案はしませんでした。
それは食品庫内に分電盤やパイプスペースなどの既存設備があり、棚などを作るのに支障があったからです。
また、台所と併設した食品庫を無くすことは、そこに収められていた備品や食品をどこかに移す必要があり、他にそのスペースを設けることが得策とは思えなかったからです。
マンションの場合、ユニットバスは通常段差があることが珍しくありません。K様邸においてもそうでした。
段差の無いタイプにユニットバスを交換しました。
この際、どのような位置関係で湯船を設置するかが問題となります。
車いすの向き、移乗の位置、手すりの設置位置など、考えることが多々ある部分です。
通常取り付けるシャワー部分に加え、シャワーを湯船のサイドにも設け、K様が使い易いようにしています。
ユニットバスの天井に近い部分に手すりを床と平行に設け、お尻を浮かして洗えるようにしてみました。
ここで重要なことは、家族もこのユニットバスを使うため、障害者のみが使い易くなるのではなく、ご家族も使い易い場所とすることです。
玄関には部分的に取替え可能なカーペットを敷きました。
外用車いすのタイヤの汚れを拭き取る効果が期待されます。
このカーペット上で外用から部屋用車いすに乗りかえて頂く提案です。
玄関脇にはご家族が使う靴箱を新設しました。
車いすに座って靴が出し入れできるよう、下部の収納スペースはありません。
ご家族も使う洗面台も洗面台の下部がオープンとなったものに交換しました。
車いすに座っている方と健常者では使い易い高さが異なることから、との洗面高さで折り合いを取るかがポイントになります。
既設のベランダにも出られるよう、段差部分にサンデッキを設けました。
木材を使わず、腐らないデッキ材を使いました。
入口部分には多少の段差が残ってしまいましたが、K様の能力を考えるとスロープを設置することで問題なく使うことができました。
完全に段差を無くすとなると、アルミサッシを外す工事が必要となり、マンションの多くはそうした躯体や防水に影響する工事は認められないことが普通です。
工事は設備を改修する必要もあり生活しながらの工事は困難なため、1週間ほどマンションを空けてもらって工事を進めました。
またマンションの場合、マンション組合への申請・工程調整、工事車両の駐車場確保、備品の搬入、上下階及び両隣への挨拶など調整を図る必要があり、注意が必要です。
また病院のドクターや理学療法士、作業療法士などとの調整、打ち合わせも必要となります。
更にバリアフリー工事は障害者、介護保険などの補助金工事申請も必要となり、多方面との調整を図り設計、工事を進める必要があります。
今回の工事では退院時期が迫ってきていたため、短い時間で設計・調整を進め、工事期間も1週間程度で済ましました。
結果的には提案内容が他社より少し多かったため見積額も増えましたが、K様からは「よくやってくれた」 「使ってみて問題はない」などの声を掛けて頂きました。
K様及びK様ご家族がこれから社会復帰する一助となれば幸いです。
障害者や高齢者の改修は一人一人障害の程度や予算も異なるため、毎回全神経を使ってベストな使い方、改修案を考えます。
また、当初から完全な改修を目指すのではなく、60~70%程度の完成度と考え、不具合があった場合徐々に改修を加えていくことをお勧めしています。
これからもこうした仕事を通じ、障害者や高齢者は勿論のこと、その方々を支えるご家族などが暮らしやすい住宅や改修に携わっていきたいと思っています。