居心地のよさを追い求めて ~建築家 永田昌民の軌跡~

2020.08.18

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私の家づくりの基本には、建築家・永田昌民さんが大きく影響しています。
今回新建新聞社から発刊された「居心地のよさを追い求めて」を読み、改めてその考えに揺らぎのないことが確認出来ました。
永田さんに影響を受けるきっかけとなったのは、私がまだ20代半ばの頃でした。
 

 
きっかけは、鹿児島で開催された永田さんをお招きしての勉強会に参加したことでした。永田さんの建築談義を注意深く聞く内に、経験の少ない若輩者でしたが、大まかな家づくりの形のようなものが心の中に芽生えた事を、今でも思い出します。その後、名古屋で永田さんの知人の家を施行させて頂く機会を得ました。
私は勝手に永田さんを「師匠」と呼ぶようにまで、その設計手法に惚れ込んでいきました。
 

 
永田さんは年間で数棟しか設計をされていなかったにも関わらず、無謀にも、阿部建設のモデルハウスを設計して欲しいと懇願しました。断られることも想定していましたが、私の熱意が伝わり、設計を請けて下さいました。モデルハウスとしての役目を終えてから現在は、私が暮らす家となっています。
 
家づくりの基本はいろいろなものがありますが、永田さんから教わった基本は大まかに以下のような事です。
 
① 一つひとつ誠実に仕事をすること
② 身の程にあった家であること
③ 見つけられるまで粘る覚悟をすること
④ 建築には時間のファクターが必要なこと
⑤ 最初から100%を求めないこと
⑥ 開けること、閉めること
⑦ 気が利いていること
⑧ 設計者、施工者、施主とリテラシーが共有できていること
⑨ 住宅が住む人の人生を左右すること
⑩ 時代が変わっても変わらない精神をどう受け継ぐか、軸足を持つこと
 
この10項目が主な基本と考えています。
 

 
この基本について、いくつか少し補足してみます。
 
①は、永田さんの師匠である建築家・吉村順三氏から受け継がれてきた言葉でもあります。一軒一軒丁寧に仕事に取り組む事がお客様のためになるだけでなく、それをつくる職人や社員、その家族の幸せにもつながる仕事であることを意味します。
 
②は、お客様から様々な要望や希望があったとしても、その敷地に合った最適の大きさ、形があると言うことです。永田さんは家づくりは【敷地】が大きなウェイトを占めるとも話しておられました。最適な形を探るのが、私たちの仕事です。
 
③は、最適な形を見つけられるまで、何度も何度も検討し模索するプロセスを大切にすると言うことです。永田さんは考えていたプロセスを施主に見せることはしなかったのですが、私は考えてきたプロセスを汚いメモのような図面ですが、施主に見せるようにしています。それは考えをいろいろと巡らした結果、この考えに至った事を伝える義務があると思っているからです。
 
④は、竣工したときが家づくりの完成でないと言う考えです。庭に植えられた木々が成長して森となったり、使われる自然素材の経年美化を楽しんだり、時を経て暮らしながら評価を受けることが本来の家づくりの基本と考えています。
 
⑤は、永田さんがよく「100%でなくていいんだよ」と話されていました。「造付家具なんてつくり過ぎると、窮屈になる」とも話されていました。これらは設計者が住まい方を限定するのではなく、住まい手が住みながら暮らしを作っていくことを意味しています。つまり家具で話すと、必要に感じたら置き家具でも造付家具でも設ければ良いと言う考えです。最初から完成度を100%求めるのではなく、肩に力を入れ過ぎない程度で家づくりを考えられれば、心にも余裕が出てくると思いませんか。
 
私の建築の原点とも言えるこれらの考え方を大切に、これからも家づくりをしていきます。